第34話 野方 小旅行記('99. 2. 1)

 ひょんなことから、西武新宿線の新宿から井荻までの回数乗車券を1枚手にしたのだが、なかなか使う機会がなく、とうとう有効期限最終日になってしまった。その日1月29日は、さほど遅くなく帰途につけたので、ここはひとつ新宿線で遠回りして帰ってみよう、ということにした。職場から渋谷まで歩き、山手線に乗る。いつもなら新宿で埼京線に乗り換えるのだが、この日は高田馬場まで乗り通す。これまで高田馬場はホーム端っこの改札しか縁がなかったが、西武線の切符を予め持っているので、乗り換え専用の改札へ堂々と足を運ぶことができる。もちろん西武線用の券売機もあるから、予め切符がなくてもいいのだが、改札に直行できる点で、周囲の通勤常連客に対して気が引けることがないからイイのである。自動改札なので、通勤経路定期券と切符と両方を通さないといけないのだが、その順番は意外にも(先)西武線切符→(後)JRの定期券、だった。順番を間違えるとどうなるのか試してみたいところだったが、せっかくの常連客気分が台無しになる上、帰途を急ぐ方々に迷惑この上ないので、おっかなびっくりだったが、順番に従い入場した。

 さて、西武線 高田馬場駅はホームの全面改良工事中ということもあって、とにかくホーム幅が狭く、並ぶのにも一苦労である。この時点で既に野方に行くことに決めていたので、どこに並んだらいいのかわからないながらも、ひとまず普通列車が来るのを待つ。ホームに降り立ってすぐ拝島行きの急行列車が来たが、あれよあれよで人垣が吸い込まれていくのには驚いた。ふだん乗らないので知らないだけだが、田無・小平方面に帰る人が多いのがよくわかった。閑散としたホームに、閑散とした普通列車が続けて入って来た。10年経っただろうか。学生時代は暇を見つけては、都内・近郊を電車で盛んに移動して楽しんでいた(このおかげで、首都圏はどこにどんな地名があって、何線に乗ればそこに行ける、という鉄道地理にすっかり強くなってしまった)が、西武新宿線の普通列車に乗るのは、多分その当時以来のことと思う。特に用事もないのに、下落合、中井、新井薬師前...実はどの駅も乗り降りしている。駅舎やホームの記憶は薄れても、駅周辺を歩いて、目にしたもの耳にしたものは何となく記憶に残っているから不思議なものである。足を使う、目耳を使う、体験を伴う記憶は強いということだろう。各駅に着く度に周辺地理を思い返しつつ、そんなことを考えるうち、野方に着いた。野方にしても過去に下車したことがあるので、何がしかの記憶がありそうなものだが、なぜかこれといった決定的な記憶がなく、はてこんな商店街、こんな家並みだったかしら、と首をかしげてしまう筆者であった。

 野方は、西武新宿線と環七通りの接点にあたるところ。環七通りと来れば、ラーメン店が軒を連ねるポイントが散在する通り。回数券を手にした当初は、野方に行こうとは全く思い描いていなかったが、野方に行けばそれなりのラーメン店に出くわすだろうから、平日夜なら行ってみてもよさそうだ、と頭の片隅で画策していたのは確かである。とは言え、あてがないので駅前の書店でラーメン店マップを繰ってみる。 ...が、有力な情報は得られず、一軒だけタクシー運転手おすすめの店が環七沿い駅南方にあることをキャッチして、ひとまず環七方面へ向うことにした。途中、帰りの足である赤羽駅行きのバス停留所とバスの通過時間を確認して、情報にあった通りの店先まで来たら、いやはやシャッターが閉まっている。レストラン・飲食店ガイド系の情報はこうした閉店・移店を細かくフォローしていない場合が多いので、またしても?!「ヤラレタ」状態となった。いやいや、この日は違った。第21話で高円寺から赤羽にバスで帰るくだりが出てくるが、過去に何度か野方界隈を車やバスで通る度に目にして気になっていたのが、環七ラーメン店の一つ「野方ホープ」。その「野方ホープ」が反対側の数十メートル先で煌々としているのである。野方駅を降りて環七通りを歩いたことなどないから、もともと正確な場所など知る由もない。それだけにこの巡り合わせは幸運だった。

 さぞ混雑しているかと思いきや、先客は一人だけ。いささか拍子抜けしたが、隣客と肩が触れるような中で食するよりはずっといい。「海苔ラーメン」を注文して席に着く。千駄ヶ谷(明治公園前)には「ホープ軒」があって、そこも業者用容器ごとニンニクが置いてあったが、こっちのホープも同様。かつて三田の慶応大前(今は武蔵小杉?)にあったラーメン二郎もそうだが、膏の多い少ないを指定できるのもホープ軒と同じ。ホープ軒の元祖がどこなのか(「ホープ軒」?「元祖ホープ軒」?)は、実はよくわからないのだが、案外「野方ホープ」かも知れない。器に羽を広げた形で海苔を配したラーメンはしょうゆトンコツ味。ニンニクを少々混ぜるとまた格別である。割り箸でなく、持ち箸なので、少々麺が滑るのはいつものことだが、独特なコシがあるように感じた。(筆者これといってラーメン事情通でも何でもないのだが、多少の違いはわかるつもりでいる。) サービスの半々ライスをつつきながらだったこともあって、時間はかかったが、それはじっくり味わって食べたことの裏返し。二人だった客は、食べ終わる頃には6人増えて、店内いっぱいになっていた。そして客が増える時間を知ってか知らずか、店員も時間に合わせて一人から二人になっていた。常連客が多いのかどうかはわからないが、この賑やかさからして、やはり名物店であることは確かなようだ。

 野方ホープの隣で改装工事をしている店舗があった。後で貼り紙を見て気が付いたが、シャッターが閉まっていたタクシー運転手おすすめの店がここに移ってくることになっている。店の名は「道開」。本には北海道ラーメンが中心となっていたので、野方ホープとの棲み分けはされるだろうけど、何も隣に来なくてもと思ってしまう。次にこの界隈に来るのはいつになるかわからないが、両者とも共存共栄していることを願いたいと思う。

034.jpg 余談ながら、現時点での筆者お好みのラーメン店上位10は左表の通りである。(野方ホープはちょっと及ばず12~20位内といったところ)

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