第11話 取扱説明書の環境アセスメント('98. 2.15)

 消費生活アドバイザーの資格は、技能よりも、その人の資質を認定するものと言われる。会社でこの資格を活用し得る場面としては、一般的にはお客様相談室であったり、販売部門や品質管理部門であったり、あるいは全社的に顧客満足度(CS)向上を推進するとしたらその担当部署であったり、要するにお客様との接点がある、お客様の視点で業務を進める、といった職務の中で活かすことが考えられる。お客様寄りの知識や苦情処理の技術もさることながら、製品を購入し、使用するお客様(一般ユーザ)の立場・視点を有しているかどうか、生活者の感覚を持っているかどうか、そうした資質面での要素が大きく問われる訳である。

 製造業においては、顧客からの注文を受けてから、実際に製品が顧客の手元に届くまでのプロセスを一貫して考える必要があるものの、そのプロセスの中では多種多様な業務や部署が入り組んでいて、顧客を意識したプロセスを構築していくのは現実的には難しい。つまり販売部門や品質管理部門が顧客対応に専心している一方で、顧客との接点が薄い部門では、顧客のニーズや満足感(品質、納品の速さ、価格、安心感、その他の要素)が容易に伝わらないこともあって、プロセスが内向的・求心的になってしまう。全体のプロセスを顧客寄りに変えようとする取り組みは筆者の勤める会社でも進められているが、それが容易ならざることは常々肌で感じているところである。(筆者がこの取り組みに関して技術研究報告としてまとめたものは、前回第10話で沖縄に出張して発表したところである。) 消費生活アドバイザー、又はそれと同等の資格・資質を持つ社員が、顧客との接点が薄い部門に配属され、プロセス改革に積極的に取り組めるとしたなら、それは顧客寄りのプロセス実現への一つの鍵となるものと思われる。

 そうした自部門のプロセス改革に関する業務は、アドバイザーの資格の有無を問わず、日常業務となっているため、筆者がアドバイザーとして関わっている作業はこれとは別にある。お客様相談業務でも、社員向けの消費者教育でもなく、アドバイザーならではのチェック項目を使った自社製品の取扱説明書に向けた審査活動、これが中心である。「マニュアルコンテスト」と題する取り組みの一環なので、多くは語れないが、筆者の平素の活動の延長で、マニュアル(取扱説明書)の環境アセスメントに力を入れることにしている。アドバイザー資格は解釈のしようで、いろいろな取り組みが考えられる点で、やはり本人の資質如何であることに合点がいく。

 製品取扱説明書に通常掲載されることの多くは、人体への影響や危険性を回避するための製造物責任法(PL)に則った「安全」に向けたものだが、これと同様に地球環境に対する安全を保証する観点が必要と思っている。環境への安全を保つことで、人体への安全につなげるという発想からのアセスメントである。

 次の3つの着眼点をまず設定した。

  1. ライフサイクルアセスメントの発想に則った製品作り・製品流通を促すためには、企業側の努力はもちろんながら、お客様の協力は不可欠である。製品情報の媒体である製品取扱説明書に環境保全面の思想やコンセプトをできるだけ反映し、お客様の協力を促しているかどうか。
  2. あくまでお客様へのアドバイスとして、修理・保守・交換・廃棄・回収等を環境保全指向で記載してあるかどうか。そして、賢い使用法(エネルギー・資源の消費を抑える)についての解説をはじめ、長く愛着をもって使ってもらうための工夫等を伝えているかどうか。これは、消費者の環境保全への配慮を促すのと同時に、それらが結果的に、お客様自身の利に適う、安心につながるという点で重要なポイントと考える。
  3. 製品本体はもとより、製品取扱説明書自体の環境保全性・環境調和性を評価する。環境に対する思い入れがまずあれば、それに付随して、環境アセスメントに十分堪える評価が得られるものと思われる。

 具体的なチェック項目案は次の通りである。

  • マニュアルに記載されている内容

「再生原料をどの程度使用しているか、又、製造工程で環境にどの程度負荷を与えたかを説明してあるか?」
「製品が生まれ変わるフローについての説明と、解体後の再生部品についての紹介があるか?」
「製品が不要になった際の適切な処理の方法についての記載があるか?」
「待機電力についての記載がされているか?」
「故障を事前に回避する為の日常メンテナンス方法が記載されているか?」
「廃棄した場合の環境への負荷について記載されているか?(例:有害物質・ダイオキシン等による水質・土壌・大気への影響)」
「回収ル-ルが決まっているものについては、そのル-ルが記載されているか?」

  • マニュアルの体裁

「非木材紙を使っているか? 混入率についての記載はあるか?」
「マニュアルが不要になった時、リサイクルに回しやすい体裁になっているか?」
「環境に配慮して、例えば大豆油配合といった天然成分のインクを使っているか?」
「蛍光塗料や顔料等の使用は抑えてあるか?」

 チェック項目の中には、明確な審査が難しいものも含まれているので、実際の審査項目はかなり絞られたものとなっているが、何はともあれ消費生活アドバイザーによる審査ということで、斬新な内容にはなっている。もちろん、環境面にとどまらず、アドバイザーならではの着眼点・チェック項目は他にも用意されているので、審査過程・審査結果が楽しみなところである。

 製品本体の環境アセスメントはもちろんだが、お客様との接点である取扱説明書の環境アセスメントを以って、総合的なアセスメントにつながれば、という思いのもと、社内のアドバイザー諸氏と審査活動を進めているところである。自社製品全てにわたり、こうした観点も採り入れた形で取扱説明書が制作されればすばらしいこと、と願いながら。

※本文は、「環境・国際研究会」のニュースレターにも引用・掲載される予定です。

トラックバック(1)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 第11話 取扱説明書の環境アセスメント('98. 2.15)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://mt.chochoira.jp/mt-tb.cgi/11

ハガキと鉛筆を用意をしてこれをクリック                   ↓            琉球朝日放送(QAB)ニュース           ... 続きを読む

コメントする

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.24-ja

2009年5月

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

カテゴリ

このアーカイブについて

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。