第4話 バリアフリー考('97.10.30)

 銀座挙げての「バリアフリークリエイション'97」なる催しが行われたので、見に行った。街中のそこここでの開催という点もすごければ、協賛企業・協力団体の多さにも目を見張るものがある。お年寄りや障害を持った方、そしてこどもたちにとって、世の中の工業製品・商品は何らかのバリア(障害・障壁)を有していることは否めない。物に限らず、施設や交通といった社会資本にもそれはある。バリアフリーという発想は、世間一般の健常者というか、最大公約数的な人を中心にしたところからは出てこない。いわゆる弱者優先の論理だが、人にとってやさしい物は、あらゆる普遍性を兼ね備えることになる。お年寄りや障害を持った方にとっての使いやすさは自ずと、一般の人にとっての使いやすさと直結するのである。バリアフリーと言う言葉自体は最近のものでもないのだが、時間をかけて確実にトレンドになってきたことを感じさせる。

 何カ所かあるバリアフリーの展示の中で、ソニービルで開催された「共用品だからもっとみんなが使える」展に足を運んだ。バリアフリーをテーマにした製品・商品がくまなく展示されていて圧巻だった。この手の発想で名高いのは、0~9のテンキーの中心に位置する5に付けた小さな凸や、テレホンカードの挿入方向を間違えないために施された切り欠きなどが挙げられる。何の変哲もなさそうな小さな工夫だが、利便性の向上に絶大な寄与となっていることは言うまでもない。

 数あるバリアフリーグッズの中からいくつか目に付いたものを紹介したい。まずは、「座シャワー」。その名の通り、座ったままシャワーが浴びられる優れものである。首から腿のあたりまで、くまなく温水があたるよう噴射ノズルが付いている。体が不自由で浴槽に入りにくい方には特に重宝しそうである。次は、各種プリペイドカード。テレホンカードに限らず、オレンジカードやバスカード、図書カードやふみカードなど、多種多様なプリペイドカードが出まわっている世にあって、これらカードを目を閉じた状態でも判別できるようにできるなら確かに便利である。買い物・乗り物・テレホンの3種を共通仕様にして、切り欠きの形を変えて配布する試みが始まっている。そして食器洗いを兼ねた台所シンク。給水口から出る水だけでなく、シンクの脇からもシャワー状に噴水が出れば、洗い物にはもってこいである。片手で食器を持って、もう片方の手で洗う、という手間が少しは省ける訳である。他にも、右左の識別用の点字を施したヘッドホンや、扇風機タイプのハンドフリードライヤー、操作ボタンの大きさにこだわったラジカセ、などなど。スーパーやデパートで時折見かけるアイデア商品バザールの類でも、バリアフリーに適ったものに出くわすことはあるが、はじめからバリアフリーを意識して作られたのとはやはり迫力の違いを感じざるを得ない。

 会場の壁面には、主催者であるE&Cプロジェクト(Enjoyment & Creation)の日頃の研究成果が展示してあった。中でも仕事柄、目に留まったのが、取扱説明書班による様々な取扱説明書が持つバリアに関するアンケート結果。大多数の声として挙げられていたのは、

  • 全体的内容が把握できない。
  • 見えにくい色文字が注意書きとして重要なところに使われている。
  • 点字やテープによる取扱説明書が用意されていない。
  • 図が多すぎる。
  • 文字が小さい。
  • 細部(修理・保全等)の説明がない。
  • 細部にわたって書かれすぎている。
  • 専門用語やカタカナ語が多すぎる。

 といったものである。さらには、

  • 有料でもわかりやすいものがほしい。
  • ビデオ・CD-ROM等のオンラインマニュアルがほしい。

 との追記がある。PL法の絡みもあって、取扱説明書が果たす役割は重要この上なくなってきている。買い求める側にも確実に取扱説明書を読み込んで、正しく使用する責任が問われる一方、製造・販売側にも、いかにバリアが少ない(あるいは皆無な)取扱説明書を提供できるか、という点が問われている。肝に銘じておきたいところである。

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