第32話 コンサートにおける顧客満足とは('99. 1. 1)

☆新年あけましておめでとうございます。本年も「東京モノローグ」どうぞごひいきに。

 第31話で予告した通り、今回は山下達郎7年ぶりのライブ「Performance'98~99」の模様をお伝えします。何を隠そう83年頃からのファンなので、かれこれ16年。人生の半分近くを達郎サウンドと共に過ごしてきた筆者にとって、この第32話は特に思い入れが強くなっており、99年の年頭に持ってくるのに格好の材料とさせていただきました。いささか長文ですが、ファンの人は言わずもがな、そうでない人もご一読願えればと思います。

 10月8日、府中の森芸術劇場のコンサートツアー初日を堪能したのに続き、12月23日は、ファンクラブ会員枠で優先購入したチケットを手に中野サンプラザへ。中野サンプラザは、山下以外にも佐野元春、EPO、吉田美奈子などで来ているが、山下だけで過去3回来ていて、実に今回で4回目になる。ファン歴16年にして、4回というのはいかにも少ない感じがするが、何せコンサート自体7年ぶりであるのと、82~86年は大阪府在住だったため、中野サンプラザには縁がなかったからである。(これでもファンらしくまじめに通っているのである。念のため。) いわゆる通常のコンサートプログラム(「Performance」シリーズ)を、事前に購入したチケットで、ここサンプラザでちゃんと観るのは初めて。しかも会員特権が効いて1階席の3列目なので実に申し分ない。ありがたい限りである。開場と同時に入り、客席中央にあるPAのパネルやMacのPCなどをのぞきこみながら、3列目の席をめざす。府中の森では会員枠がなかったため、2階席、それもステージ向って右の後方だったので、ステージの細部をチェックすることができなかった。今回は1階席の特典を生かし、席に着く前に、ステージのセットをじっくり拝謁できたのはついでながらうれしいことだった。86年は古いアメリカ調の街角、88年は遊園地、91年は停車場、といった具合で、派手さに加え、ステージをめいっぱいに使った「絵」というか「描画」が展開されるのはお決まりごと。今回はヨーロピアンリゾート風のちょっとオシャレな感じで、「夏だ海だ達郎だ」の80年代前半当時の再現といった印象を受ける。セットの店やホテルの壁面には、本人のポスターの他に、ご伴侶 竹内まりやのものもあって、Detailに対するこだわりをつくづく感じた。ちっちゃな噴水も置いてあるが、これが曲の途中でちゃんと水を噴き上げるようにできているのもさすがである。

 さて、18:30開演のところ、大した遅れもなく、いつものごとく一人多重コーラスのイントロが流れ出した。18:40頃である。客席・ステージとも暗くなり、ぐっと昂揚感が高まる。今回のイントロは、新譜「COZY」に入っている「Fragile」のバックコーラス部分をアレンジしたもの。バンドメンバーがひととおり入ってきた最後尾に達郎の姿が目に入ると会場は一斉に沸き上がる。拍手と喝采の中、しばらくイントロが続く。ここまでは今までのコンサートと同じ。そしていつもなら新譜から何か一つ採り上げて、一曲目になるのだが、多重コーラスの余韻が消え入らぬうちにカッティングギターが静寂を破る。おなじみ「Sparkle」である。新譜から、となればそのまま「Fragile」を歌い出しても良さそうなところだが、通常2曲目に来るこの曲での幕開けに、会場も意表を衝かれたようで、どよめきのような声が上がった。(筆者は、府中の森で既に体験済みだったので、ひょうひょうとしたものである。しかし1階席ということもあってか、音圧の違いを感じ、思わず身震いしてしまった。) ここからは、一曲一曲文章で書き綴っていくときりがないので、まずリストアップする。尚、時間はおおよそのものである。

18:43
 |  Sparkle
18:48
 |  Daydream
18:54
 |  ドーナツソング (挿入...19:01~03 ハンド・クラッピング・ルンバ)
19:04
 |  Paper Doll
19:16
 |  群青の炎
19:26
(MC)
19:32
 |  こぬか雨
19:35
(MC)
19:40
 |  夏の陽
19:46
 |  風の回廊
19:51
 |  潮騒
19:56
(MC)
20:02
 |  Stand by Me
20:05
20:06
 |  Close Your Eyes
20:09
20:10
 |  Chapel of Dreams
20:12
 |  煙が目にしみる
20:17
 |  White Christmas
20:18
 |  クリスマス・イブ
20:24
 |  蒼氓
20:37
 |  Get Back in Love
20:43
(MC)
21:02
 |  メリー・ゴー・ラウンド
21:07
 |  Let's Dance Baby
21:16
 |  Loveland, Island
21:25
(Encore)
21:29
 |  パレード
21:34
 |  Funky Flushin'~
21:37
 |  硝子の少年~
21:39
 |  Bomber~
21:42
 |  Funky Flushin'
21:45
 |  RIDE ON TIME
21:56
21:57
 |  Your Eyes
22:01

981223.jpg 山下達郎のコンサートは1曲の長さもさることながら、とにかく全体を通して長い。「Performance'98~99」は全48本。この日で28本目になるが、東京に戻ってきて最初だったということもあって、里帰り感覚もあってか随所で盛り上がり、今回も3時間半に迫る長丁場となった。チケット代「7,500円は高い」と正直思っていたが、時間あたりの単価にすれば、他のアーティストの公演と同等。演奏者のクオリティはもちろん、セットの豪華さも考え合わせればむしろお得である。盛り上げ方もツボを得ているし、何よりファンサービスたっぷりなのがうれしい。常連のファンでないとわからないテイストもあるが、はじめて来る客も十分に楽しめるものと思う。コンサートの観客を顧客とすれば、顧客満足度という点でこれほど高いものを提供できるミュージシャンはそう多くはないだろう。改めてそんなことを感じさせてくれる3時間半だった。

 「Sparkle」はオリジナルとは違うアレンジで毎度演奏されるが、今回は特にしっかり聴かせるアレンジで職人芸ぶりを楽しむことができた。「ドーナツソング」では間奏部分に「ハンド・クラッピング・ルンバ」が入り、会場との一体感が楽しめた。毎回、客を乗せるひと工夫が飛び出すが、この「拍手手拍子」は最高だった。(「ハンド・クラッピング・ルンバ」は大滝詠一の往年の一曲。いわゆるナイアガラ通でないとノリがわからないところがミソである。)

 一人多重コーラスをバックに歌う「アカペラ」はお決まりのメニュー。「Stand by Me」からの3曲は、どれも冥利につきる聞かせぶり。声量・声質ともに衰えを感じさせず、圧巻だった。「クリスマス・イブ」~「蒼氓」~「ゲット・バック・イン・ラブ」の3曲は何と言うか大人のためのヒットメドレーといった感じで心和んだ。

 山下達郎のコンサートは総立ちにならないのが一大特徴。純粋に音を楽しむのであれば、どんなアップテンポの曲であれ、座って聴いていたっていいのである。そんなポリシーを理解した上で来る客が多いから、こっちとしてはありがたいところ。さすがに1階席ともなると盛り上がりがワンランク上(つまり周りはみんなファンクラブ会員だから)であろうから、立ち上がる観客も多いだろうな、と正直冷や冷やしていたが、実際、十八番の「Let's Dance Baby」あたりまで、じっくり聴くことができたのは幸いだった。「メリー・ゴー・ラウンド」の曲中、エレキギターの弦が切れるというハプニングがあったが、達郎本人もそれだけテンションが高まっていたのだろう。このあたりになると、自分でもテンションが高まるのがわかり、こらえきれず踊り出す人が出たのは大いにうなずけた。何せ7年ぶりなので、これまたお決まりのクラッカーが飛び出すかどうか、ちょっと気がかりだったが、全くの心配無用。「Let's Dance Baby」2番の歌い出し「心臓に指鉄砲~」に同調してクラッカーが鳴り渡ると、否応なく会場の一体感は高まるのであった。この曲は洋楽邦楽のいろんなフレーズが差し込まれるのも恒例。今回はアースウィンド&ファイアの「September」が挟まったのが新鮮だった。

 アンコール前後の定番ソングは、全く遜色なく、真骨頂を観る思い。歓声も含めてライブアルバム「JOY」を生で聴いているのと同じ感覚だった。とにかく昔と同じ暖かい歓声があちこちで聞くことができたのは、うれしい限り。ただ、達郎コンサートを知らない人たちがいるのを感じたのは、「LOVELAND,ISLAND」のエンディングで拡声器を使って「~you!」と絶叫する部分と「RIDE ON TIME」でステージ後方に下がってマイクレスで雄叫びする部分(いずれもお決まり)で、純粋に驚きの声が上がったのを聞いてのこと。筆者は慣れたものだが、初めて体験する人にとっては、やはり強烈なインパクトがあるようだ。(今回「RIDE ON TIME」の雄叫びでは余興で銅鑼まで鳴らすという演出ぶり!)

 さて、アンコール後の一曲だが、通例なら新譜から代表的な曲を持ってくる。府中の森では「ドリーミング・ガール」だったので「あぁやっぱり」と納得したが、この日はなんと「パレード」。ライブに乗せやすい曲をラインアップしたということで、こうなったのだろう。続く「Funky Flushin'」からのメドレーで「硝子の少年」が出たのは感動モノだった。(府中の森でも聴いたが、こういうのは何度聴いてもいい。) 国民的なヒット曲はきっちり押さえる、この辺のセンスが顧客満足を高めている要因と思われる。いやぁよかったよかった。

 新譜「COZY」からの曲が少なかったのは、雑誌のインタビュー記事で読んで知っていた(つまり自分で演奏したい曲を中心に編成するという)ので、心づもりはできていたが、今回は「ドリーミング・ガール」も抜けてしまったため、「COZY」全15曲のうち、ライブで演ったのは2曲どまり。やはりちょっと寂しいところ。長野五輪のサブテーマ曲「ヘロン」、隠れた名曲「邂逅」、シングルヒット曲の「Magic Touch」、これに「BLOW」が加われば言うことないのになぁ、と思った。とはいえ、過去の代表曲を網羅しての全26曲。これはベストライブと呼んでいいと思う。

 繰り返しになるが、「Performance」シリーズは7年ぶり(MCでは7年と言えばセミの一生、と本人も苦笑していた)の再演。思えば筆者、この7年の間に2度の転勤、結婚、マイホーム、30才の誕生日と個人的にいろいろ大きなことがあったので、その歳月の重さに感じ入り、ひとしおの感慨を覚えたのであった。だが、前回の「Performance'91」に思いを巡らすと、ついこの間のことのように回想される。つまりそんな7年の本来なら重たい筈のブランクを全く感じさせないすばらしいライブコンサートだった訳である。見事なカムバック(リハビリ中?と本人は言っていたが)と称したい。次はいつお目にかかれるかが気がかりだけど...

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