第150話付録
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「豊かな地域社会の形成とセンターの役割」(2003.8.26)

 対象や運営方式を問わず、どんなセンターでも共通して求められるのは、立地する地域社会と一体となって、その地域に貢献する存在となること、だと思います。正に地域社会形成に果たす役割大です。概して、次のような2つの役割が考えられそうです。


1.地域の良さを見直し、その良さを共有する

 外来人口が多いと、地域に愛着を持たせにくいという話はよく聞きます。東京、そして北区についても、外来人口が多く、当地を「ふるさと」として大事に思う人が少ない、ということであれば、とにかくその人が今暮らしている地域や近所にきちんと目を向けて、地元に愛着を持ってもらう(大事にしてもらう)ことをまず考える必要がありそうです。

 良いところ、悪いところの境なく、できるだけその地域をプラス評価する。ないものねだりではなく、「あるもの探し」が重要、という話もあります。住んでいる、または生まれ育った街・地域に今あるものを大事に思う、身近な環境を見直す・慈しむ、地元の良さを再発見・再評価する...ご存じかと思いますが、これは「地元学」と称され、各地で動きが出てきています。

 北区における地元学を究める・広めるための役割が一つに考えられます。対象は、雑木林、鎮守の森、緑地、河川や干潟、在来植物の自生地、湧水などの自然要素の他、町並み、商店、歴史的遺産、人情、風情、伝承、郷土文化など、あらゆる事物が広く含まれます。「北区に生まれて、または北区に住んでて良かった」という実感を来館者や地域の皆さんに感じてもらうための取り組みや情報を発信できる場になれば、と考えます。

補記)

 水俣市職員の傍ら、地元学を提唱されている吉本哲郎さんも「地元の者が当事者になって、地元に学び、地域にあるものを探す。そうすることで、地域の持っている力、人の持っている力を引き出すことができる」と仰っています。

 平成15年版の環境白書では、「地域社会から始まる持続可能な社会への変革」が主なテーマに掲げられ、より良い地域を創っていこうという取組意識や能力を指す「地域環境力」が標榜されています。


2.課題解決力と「区民力」の向上

 仮に、1.のような地域尊重・地域回帰の取り組みを通して、そこに生きる実感や価値を見出す人が増えてくると今度は、主体的に行動する市民、地域の意思決定に関わる市民を育むことがセンターとして可能になってくると思います。行政や企業では手が届きにくい地域の課題を、市民自らが探り、その解決の仕方を話し合う場を提供することが挙げられます。

 また、課題解決に向けての前提として、何かを大事に思う、かけがえのなさや痛みを知る、思いやり、慈しみ、敬意・謝意、という精神性や情動があると思いますが(これらは福祉、まちづくり、環境保全、防災、国際協力等々どの取り組みでも共通と考えます)、少しでもそうした意識を持った人が集い、波及していけば、街のバリアフリー化、ポイ捨てなどの自制、美観の回復も進み、マナーやモラルも自ずと高まっていくものと思われます。皆で地域を大事にするようになれば、いつしかそこには心でつながり合う本当の豊かさが現れてくるように思います。凶行や非行も抑止できるかも知れません。

 地域社会との関わりを通して、その人自身が生き生きしますし、「人のつながり」が厚くなります。それは地域に潜んでいる元気を掘り起こすことにもつながります。市民力(区民力)とはこうした元気に加え、地域の個性や色、ペースそのものだと考えます。これらを明らかにし、保つこともセンターの役割の一つと考えています。
(冨田行一)

以上です。


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